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蜘蛛の巣 4章 2-2

久々知を医務室へと運んだあと、そのまま自分にあてがわれた部屋へと向かった。正確にいえば、私は生徒としてこの学園にはいなかったから一人一人に与えられた役割というものも特には存在しないので 部屋も中央や医務室からは一番離れた 場所のものを使わせてもらっている。

本来なら任務というものも存在しない。あくまで私は、やりたいように動いているだけだ。”ネオ”を取り巻く環境に、この国の中心となるべき物に、抱いた疑問を晴らすために。
この力は、偶然手に入れたもの。蝕まれていく体がはたしてどこまで持つかはわからないが、私は自分の目的を果たすためなら最後の最後までだってもがくだろう。

ただし 私は、決して 組織の一員などではない。それは、私の中の大前提。






「あれ、利吉さん。」

部屋に戻る道すがら、まぬけな声に呼び止められた。

「お久しぶりですね!随分汚れてますけど、今帰ってこられたんですか?」
「そうだが、君はいつも掃除をしているのかい。掃除係くん。」
「小松田です!」

掃除係じゃなくて事務です!と箒と雑巾を握りながら主張する姿にはまるで説得力はない。事務職といってもこんな隠れた組織では特にやることはないのだろう、私が見かける彼はいつも掃除をしているような気がする。

「大して汚れてないだろう、こんな所。」
「それが意外と汚いんですよ!新鮮な風が来ない分 パイプや機器にほこりがたまって、ちょっとでも不具合起こしたら、僕 ユキちゃんに叱られるんです。」
「ユキは君のいくつ下だと思ってるんだ。」

えーでもユキちゃん怒ると怖いんですよ、と言いながらも彼はせっせとパイプに雑巾を滑らせる。毎日してるのかこんなこと。蜘蛛の巣の広さを考えれば想像以上の重労働だ。

「私が言うのもなんだが、大変そうだな。」
「皆に比べたら全然!これくらいしか僕にはできませんからっ。」

ニコニコ顔を張り付けて掃除する姿に、そういえば彼は私とは正反対だったなと思い出した。
ネオの実験を受けて体に強く寄生した私に比べ、彼は実験直後からほとんど何も変化がない。左腕に浮かぶ白い痣だけが、彼を”ネオ”と示しているのだ。感染している年数が増えるほど体にかかる負担が大きくなるが、私の次に実験を受けた彼にはそれが全く見受けられない。

「どうして僕だけこんなんなんでしょうね、素質が全くなかったのかなぁ。」
「それは・・・。」

それは多分、ないだろう。もしそうなら、実験を受けた時点で彼は死んでいるはずだ。けれどこの件に関しては簡単に口は割れない。

「だからとりあえず、皆が本当にしなきゃいけない事に取り組めるようにしてあげたいんですよ。たとえばほら、掃除とか。」
「縁の下の力持ちってわけか。」
「え?力持ちに見えます?」
「・・・例えだよ。」

なかなか会話ができないことに若干疲れを感じてきた。そろそろ私は休むよ、そういうと飾り気のない笑顔を彼は向けてきた。

「ゆっくり休んでくださいね!後でお茶持っていきますよ!」
「あぁ、頼むよ。」

埃のついたままの箒をちらせながら見送る彼を軽く咎めて私はやっと自室へと戻った。



思えば彼は、私とは本当に正反対だ。
私は私の目的のために 学園を利用し、生徒を利用し、それが結果的に学園を助ける形になっているが、彼は自分の意志で見返るを求めることなく彼らを助けたいと心から思っているのだろう。
純粋なあの子たちににているな、と知らず私は笑みを浮かべた。悪くない、嫌いじゃない。





数十分後、本当にお茶を持ってきた彼が部屋でつまずいて、私の顔面にアツアツのお茶をこぼし 蜘蛛の巣ないに響き渡るほどの怒号を浴びせたのはまた 別の話だ・・・。



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